配偶者居住権
民法改正(平成30年法律第72号)により、残された配偶者の居住の権利を保護する方策として、「配偶者居住権」という権利が、新たに創設されました。
この権利には、大別して、遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限りこれを保護する、「配偶者短期居住権」と、配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための「配偶者居住権(長期)」があります。
配偶者短期居住権について
相続開始時に、配偶者が、被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、以下の期間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得することができます。
① 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし,最低6か月間は保障)
② 居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月
平成30年の民法改正前には、例えば、遺産分割の結果、被相続人の居住建物が生存配偶者以外の相続人の所有になってしまった事により、生存配偶者が、それまで居住していた建物に居住出来なくなってしまうケースにおいて、「原則として、被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたと推認する」という判例法理(最高裁平成8年12月17日判決)によって、生存配偶者の居住権が保護されていました。
しかし、この判例法理は、あくまで当事者の合理的意思解釈に基づいて使用貸借契約を推認するものなので、被相続人がその居住建物を第三者に遺贈したり、被相続人が明確に反対の意思表示をしていた場合には、推認が働かない結果、残された生存配偶者は退去を余儀なくされる結果となりました。
そこで、改正民法では、被相続人の意思にかかわらず、残された配偶者の居住を保護することが出来るように、配偶者短期居住権という権利を創設し、常に最低6か月間は配偶者の居住が保護されるようにしました。
配偶者居住権(長期)について
これは、残された配偶者が、被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でも可)に居住していた場合に、被相続人が亡くなった後も、原則として終身の間、賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。
配偶者居住権(長期)のデメリットとメリット
配偶者居住権は,第三者に譲渡したり、所有者に無断で建物を賃貸したりすることはできませんが、その分、建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権を確保することができるので、遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとして、配偶者が、配偶者居住権を取得することによって、預貯金等のその他の遺産をより多く取得することができるというメリットがあります。
民法改正前の状況
民法改正前には、例えば、残された配偶者が居住不動産を遺産分割により取得しようとすると、不動産の価値が高い分取り過ぎとなり、他の相続人に、代償金を支払わねばならなかったり、不動産以外の預貯金を取得できなくなるという不都合がありました。
又、配偶者が居住不動産を取得出来なかった場合には、住み続けるためには、居住不動産を取得した相続人との間で賃貸借契約又は使用貸借契約を締結しなければならず、それが出来ない場合は、転居先を見つけなければなりませんでした。
しかし、高齢社会の日本では、残された配偶者の多くは高齢で、賃貸物件を見つけるのは容易でありません。
この点、このような場合の対策として、被相続人が、亡くなる前に遺言を残す方法もありますが、例えば、配偶者が生存中は居住建物に配偶者を住まわせつつ、配偶者が亡き後は一人っ子である長男に相続させたいと考えて、配偶者に居住建物及び底地を相続させるという遺言を残したとしても、確実に長男に相続される保証はありません。一方、遺言で、長男に居住建物及び底地を相続させることにすると、もし長男と配偶者が不仲だと、今度は配偶者の居住を保護することが出来なくなるというジレンマがありました。
このような問題が、民法改正前にはありましたが、改正によって、配偶者居住権という権利が創設されたので、今後は、長男には居住建物及び底地を取得させ、配偶者には配偶者居住権を取得させるといった具合に、遺産分割や遺言において、配偶者の居住を保護しながら、柔軟な遺産分割や遺言が実現出来るようになることが期待されます。
配偶者居住権はどのような方法で取得するのか?
残された配偶者は,被相続人の遺言や,相続人間の話合い(遺産分割協議)によって、配偶者居住権を取得することができます。
もし、他の相続人との間で遺産分割の協議が調わないときは,家庭裁判所に遺産分割の審判の申立てをすることによって、配偶者居住権を取得することが可能です。
配偶者居住権は登記できるか?
配偶者居住権は、登記することが出来ます。
配偶者居住権は、原則として終身の間、建物に住み続けることができるという強力な権利ですが、第三者(例えば、居住建物を譲り受けた人)に権利を主張できなければ、居住権保護の目的を達成できません。
そこで、改正民法では、「居住建物の所有者は、配偶者に対して、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う」と規定することにより、第三者に対する対抗力を与えました。
配偶者居住権を取得した場合は、なるべく早く登記しましょう。
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