【弁護士コラム】親族による預金引出訴訟について【2023年3月17日更新】
1.特徴
被相続人の生前、その預貯金を親族が不正に引き出したとして、相続発生後に親族間で紛争になるケースでは、不法行為や不当利得に基づいて引出金相当額の損害賠償ないし引出金の返還を求め訴訟を提起する場合があります。この訴訟類型は、民事裁判の中で決して少なくない割合を占めていると言われています。
この訴訟類型を対象とする、平成30年1月~令和2年12月まで(3年間)の第一審裁判例の分析によると<注>、その特徴として、審理が長期化しやすいことが指摘されています。
<注>「被相続人の生前に払い戻された預貯金を対象とする訴訟についての一試論-最近の第一審裁判例の分析」最高裁判所事務総局総務局第一課長(前大阪地方裁判所判事) 長田雅之(判例タイムズ1500号39頁)
2.なぜ長期化するのか?
長期化の理由は次のようなものです。
① 当事者の感情的対立が激しく、様々な主張がなされがち
② 和解による解決も困難となりがち
③ 客観的証拠が乏しいため、裁判官が心証を形成しにくい
④ 民法上の不法行為や不当利得の要件該当事実は定型でないため、各当事者が主張や立証をすべき事実が曖昧になりがちで、争点整理に時間がかかるなど
上記の注記文献においても、「当事者の人間関係を背景として、訴訟当事者の感情的対立が激しくなりがちで、例えば、主張書面の過激な表現や証拠提出の要否を巡る応酬が行われ、さらには和解勧試も困難となりやすい。」などと分析されています。
3.裁判所の取り組み
そこで、裁判所では、迅速な裁判のための取り組みをはじめています。
例えば、原告に払戻し一覧表を作成・提出するよう促して、それを被告に確認して貰う方法により、早期に事実を整理したり、整理された事実関係をもとに原告と被告それぞれに対し必要な主張や立証を促す等の工夫をしているようです。
もっとも、実際に、払い戻し一覧表や使途一覧表を作成するのは当事者(及びその代理人弁護士)なので、当事者の負担は大きくなります。
例えば、財産管理をしていて訴えられた側では、日々の細かな支出を、領収書等の客観的証拠が乏しい中で、時系列に纏めて一覧表を作成することは、時間と労力を要する作業です。
とはいえ、民事裁判では、主張と立証の責任は当事者にあるので、当事者としては、自らの主張を認めて貰う為のツールと捉え、努力を惜しんではいけません。
【2023年3月17日更新】
執筆者:渋谷シエル法律事務所 弁護士小林ゆか
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